第三次世界大戦はもう始まっている ── エマニュエル・トッド

 

Book Review :エマニュエル・トッド第三次世界大戦はもう始まっている」

ウクライナ戦争の原因と責任は、アメリカとNATOにある」

7月、エマニュエル・トッドの「第三次世界大戦はもう始まっている」が上梓された。トッドは、この本の中で「ウクライナ戦争の原因と責任は、アメリカとNATOにある」と言い切っている。これが西洋知識人の標準的な見方だ。
この本が出たことで、「ロシアが悪者だ!ウクライナを救え!」といっていた日本の知識人や専門家たちが、モゴモゴしだして一挙におとなしくなった。

 

ウクライナ問題はアメリカにとっても死活問題である。

シカゴ大学教授のジョン・ミアシャイマーは、いかなる犠牲を払ってでもロシアが勝利するだろう」と結論した。しかしトッドは、それは間違っている、なぜならば、この問題はアメリカにとっても「死活問題」だからだという
それは、アメリカは軍事と金融の面で世界覇権を握るなかで、実物経済の面では世界各地からの供給に依存しているが、そのシステム全体が崩壊する恐れがあるからだ。

ロシアは実質的に勝利している。中国がロシアを支援するのはなぜか?

トッドは、ウクライナ武装して事実上のNATOの加盟国にしたアメリカの政策こそが、ウクライナ問題を世界戦争化し、われわれは既に第三次世界大戦に突入したという。
今年3月の時点で、ロシアはウクライナの領土の20%から25%を獲得し、しかも産業はそれらの地域に集中していて、ウクライナの産業地域の30%から40%になる。ロシアは既に実質的に勝利している。そして中国はロシアを支援し続ける。なぜか?

<「ロシアを支援しない」という決断を下すほど、中国の指導者が愚かだとは思えません。ロシアが倒されれば、どんな形にせよ、次に狙われるのは中国自身だからです。>(64頁)

ヨーロッパで起きている戦争なのに、日本がやったロシア制裁は滑稽だ。

<ここで日本は何をしようとしているのでしょうか。ヨーロッパで起きている戦争のために日本がロシアに政策を科すというのは、少し考えてみると滑稽なことです。(中略)
国連総会での対ロシア決議やG20での議論を見ても、世界の大半の国は、むしろロシアの勝利を望んでいるようにも見えます。彼らは、「西洋の傲慢さ」にうんざりしているのです。今回の戦争において、西洋が勝利する可能性もありますが、同じだけ敗北する可能性もあるのです。>(89頁)

そして本書の最終章に収められた4月のインタビューでは、トッドは戦争の行方についてより明快な表現をしている。

<この「経済的な消耗戦」において、私は西側陣営が勝利する方に賭ける気にはなりません。アメリカ、イギリス、フランスの対外貿易への依存度は途方もないレベルだからです。>(178頁)

武器だけを提供し、ウクライナ人を”人間の盾”にしてロシアと戦っているアメリカを強く憎むトッド。

アメリカは”支援”することで、実はウクライナを”破壊”している。

<戦争が終わった時、生き残ったウクライナ人たちは、どう感じるのでしょうか。少なくとも私がもしウクライナ人なら、アメリカに対して激しい憎悪を抱くはずです。というのも、「アメリカは血まみれの玩具のようにウクライナを利用した」ということこそ、すでに明らかな歴史的真実だからです。>(206頁)

参考:5月のマウリポリのアゾフスターリ製鉄所での勝利で状況は変わった。

6月23日、ダボス会議にオンラインで登壇したキッシンジャーは、ロシアの侵攻前の状況をロシアとウクライナの国境とすることが望ましいと指摘した。2014年にロシアが併合したクリミア半島の奪還を断念する提言といえる。つまり、アメリカ政府に対して「ロシアを破滅に引き込むことは、もうムリだ。やめろ」とタオルを投げ込んだということだ。

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