エマニュエル・トッドと池上 彰の対談から

エマニュエル・トッドと池上 彰の対談から

 

ちょうど一年前に「第三次世界大戦はもう始まっている」を上梓した"ヨーロッパ一の学者"エマニュエル・トッドが、6月13日に「問題はロシアより、むしろアメリカだ 第三次世界大戦に突入した世界 」という池上彰の対談本を出した。

同月30日に、AERAがこの対談を再編集して「ウクライナ戦争の裏で進む『アメリカの危機』  ──  池上彰『結果的にロシアの世界戦略が成功しつつあるのかも』」という記事を掲載した。
この記事におけるトッドの主要な発言を切り出してみた。
日本のほとんどの学者や記者、評論家、軍事関係者らの主張とは大いに異なる。どちらが正しいのかは、過去の「実績」を見てもわかる。

 

問題はロシアで中国でもなくアメリカだ

世界のシステムを考えていくうえで、どの国が問題なのか。世界が不安定化していくその中心にあり、世界がこれから先に向き合わないといけないのはアングロサクソン圏、とくにアメリカの「後退のスパイラル」なのだということに気づいたんです。問題はロシアでも中国でもなく、アメリカなのです。

分断された世界よりもアメリカ一極の世界の方が危うい

(現在の)分断した世界が不安定だと言い切ってしまうのは、間違いだというふうに思います。人口的にそこでは停滞した世界があって、でもある程度、平和的で安定した社会があるんじゃないかと、私は想像するんですね。
一方で、たとえばアメリカが1国の覇権国家として存在し続けるといった世界のほうがむしろ危うくて、不安定化を招くのではないかというふうに私は思います。分断した世界というものは、不安定ではない可能性もあるわけです。

 

戦争が終わるのは5年後

私は5年だと思いますね。人口動態で見ると、ロシアの人口が最も減り始めるのが5年後であること、また第1次世界大戦、第2次世界大戦ともに5年ほどで終わったということもあります。

 

戦後に台頭してくるのはロシア
たとえば二つの国の勢力が対立すると、その後にはその周りにいた国が台頭してくる、ということは歴史のなかでもありました。
むしろ、ロシアが勝者になる可能性があるんです。この戦争は単なる軍事的な衝突ではなく、実は価値観の戦争でもあります。西側の国は、アングロサクソン的な自由と民主主義が普遍的で正しいと考えています。一方のロシアは権威主義でありつつも、あらゆる文明や国家の特殊性を尊重するという考えが正しいと考えています。そして中国、インド、中東やアフリカなど、このロシアの価値観のほうに共感する国は意外に多いのです。