ブックレビュー:「100分de名著 ソクラテスの弁明」
「なによりも大切にすべきは、ただ生きることではなく、より良く生きることである ── ソクラテス」
哲学を学ぼうとする人びとにとって、まず手にしなければいけないプラトンの「ソクラテスの弁明」は、解説が充実した新しい文庫も出ている。
でも、「じっくり読んだけど、今一つ深い理解に至らなかったなー」と思っている人にお薦めなのがこの本。
「別冊NHK100分de名著 読書の学校 西研 特別授業『ソクラテスの弁明』 」
不知の知
この本は早稲田高校有志の生徒との100分の対話をまとめたものだ。
一つ目のキーワードは「不知の知」だ。
「無知の知」はソクラテスの言葉として知られていて、実際に「ソクラテスの弁明」にも出てくるのだが、ソクラテスが重視していたのは「不知の知」、つまり何が価値あることかを知らないことを問題にしていたのだということを教えてくれる。それは最近の研究の成果だという。
古代ギリシャは長期にわたる自由な思考の実験場だったため、「思考の形」が出揃っていた。ニュートンの本のタイトルが「自然哲学の数学的原理」であるように、自然科学も自然哲学だ。だが、古代ギリシャの哲学は仮説を検証する方法をもたなかったために、一つに収束しなかった。
この後、ソクラテスによって哲学は「価値」を問うことへ進化する。
哲学とは共通理解を育てることを目的とした対話の営み
哲学とは「対話の営み」で、その対話(議論)のルールは、①根拠を挙げて主張すること、②問題の根っこを考えることだ。そのためには、原理性と一般性を備えた考えを導き出していくことが大事だ。
著者は、この合理的な共通理解を育てることを最終目的とした対話の営みが哲学だという。
魂への配慮(魂をなるべく良いものにすること)
もう一つのキーワードは「魂への配慮」だ。ソクラテスは人の徳(アレテ―)とは「魂(プシュケー;心、人格)の優れたあり方」だと考えた。魂のよさはすべてのよさの源泉となる。
哲学対話は体験例からスタートし、具体的な体験に即することで互いの常識(物の見方)を検証する作業だ。自分と相手の常識を吟味することだともいえる。
こうしたソクラテスの主張を昔は「知徳合一」といった。
だから、ソクラテスのこんな言葉が残っている。
吟味を欠いた生というものは、人間にとっては生きるに値しない 。
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