遠藤誉著「『中国製造2025』の衝撃」

日本人は怖れ反発するだけでなく、等身大の中国を見よ

著者の遠藤誉氏は中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授である。満州国新京市(現吉林省長春市)生まれで、流暢な中国語を駆使する。

この「『中国製造2025』の衝撃」は2018年12月に発刊された。

アメリカが怖れているのはこの2025

2015年5月、中国は「中国製造2025」(以下2025と記す)を発布した。この計画のゴールは2045年、最終的には中国人民共和国誕生100周年の2049年である。アメリカが怖れているのはこの2025であり、中国がアメリカを凌駕し世界一番の強大国になることだ。この2025のホシは宇宙開発であり、アメリカはこれに対抗するために、2019年12月20日、宇宙軍を創設した。2018年3月の習近平国家主席の任期制限撤廃はなんとしてもこの2025を実現するためである。

参考記事 

”21世紀のスプートニク・ショック” ── 中国は2016年8月16日、量子暗号衛星「墨子」の打ち上げに成功した。アメリカの二歩先を行く。

1. nippon.com 2019.07.12付け記事

2. 日経クロステック 2021.05.07付け記事

 

アメリカは2025に対抗して宇宙軍を創設。中国はアメリカの「国内第一主義」に対抗して「人類運命共同体構想」をぶち上げたぶち上げた

2017年10月28日、共和党シンクタンクである「プロジェクト2049研究所」創設のランドール・シュライバーが米国国防総省アジア担当に就任した。シュライバーの分析に基づき、トランプ政権は国家防衛戦略に対中強硬視点と台湾へのエールを採用した。米中貿易戦争の動機の根底は2025に対するハイテク戦争であり、中国の宇宙強国への警戒である。なぜなら次の戦争は「宇宙戦争」となるからだ。中国はアメリカとの貿易戦争に備えて「一帯一路」「BRICS+」「中国アフリカ運命共同体」を形成してきた。中国はこれにBRICS+の22カ国、アフリカ53国、その他の77の国々を巻き込み合計133カ国の勢力を誇っている。
著者によると中国のGDPが近年6%台に落ちているのは、中国がハイテク製品と部品の自給自足体制を完成する2025年まで、経済成長を犠牲にしてまでも研究開発と人材育成にカネと力を注いでいるためだという。

教育で勝った中国。教える人も世界の一流を揃えた

教育機関が閉鎖された文化大革命時代、向学の思いやまぬ中国の青年は海外の大学に留学し、卒業後もそのままその国で働いていた。胡錦濤は「千人計画」「万人計画」を策定し、楊だけでなく外国籍中国人や外国人の人狩りを行った。「中国生まれの中国育ち」の優秀な人材を育てるためには、教育指導者が第一級でなければいけないからだ。そして、建国直後の留学組の優秀な科学者たちもいる。
64年の中国初の核実験成功をもたらしたのはフランス・マーキュリー研究所に留学していた銭三強とその妻何沢慧であり、弾道ミサイル製造はMITやペンタゴンにいた銭学森とその弟子の楊承宗だ。華為の子会社海思(ハイシリコン)は華為の子会社で製品の半導体の100%を華為に供給している。紫光集団と海思は2017年に世界のファブレス半導体メーカーランキングのそれぞれ10位と7位になっている。

月面にビジネス基地をつくる

毛沢東時代から中国は宇宙開発に全力を挙げてきた。習近平は「2015年国防白書」で月面にビジネス基地を作ることを盛り込んでいる。これらは国家の領有権の主張を禁止した1967年発効の「宇宙条約」や84年国連発効の「月協定」に反する。一方、オバマも2015年に「宇宙法」を成立させ個人あるいは企業による宇宙所有は許されるとした。これが今日のジェフ・ベゾスイーロン・マスク宇宙旅行につながっている。毛沢東が唱えた「両弾一星」は現在では核爆弾、弾道ミサイル人工衛星を意味する。

中国のこれら一連の動きはすべて一党支配体制の維持と人民の統治のためである。

 

デジタル人民元こそ2025の扇の要

著者はこのあと、「ポストとコロナとデジタル人民元」を上梓した。
2016年12月15日、中国は第13次五カ年計画(十三五計画)を発表し、デジタル人民元導入を正式に決定した。著者はこの本で、デジタル人民元こそが「中国製造2025」の扇の要だという。
この本で彼女は2025はすべてデジタル人民元の成功と世界への普及のためだといっている。香港はコモンローで統治されており、中国はシビルローの中国とマカオは国際金融センターとしての役割に限界があることをAIIBを通して学んだ。デジタル人民元アメリカに対抗する中国の最善策である。ブロックチェーンは事前の手順どおりにしか作動しないので法に変わり得る。デジタル人民元政策は、コモンローによる束縛を希薄化し、アメリカの香港に対する干渉を減少させようというのが第一の狙いでもある。世界基軸通貨をもつアメリカの世界覇権の下、中国はデジタル人民元で生き残りをかける。

そして2020年、ついにFRB中央銀行発行のデジタル通貨(CBDC)を研究材料として位置づけた。

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